【 最後の砦・呉線 】

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【 C50の廃車群 】

殆ど人けの無い静寂に包まれた機関区の一番奥の車庫裏に赤く錆び付き解体を待つ6,7両の力尽きたC50の屍があった。つい最近までその体内で真っ赤な炎を燃えたぎらせ吹き上がる蒸気に人間的な鼓動を感じたのに 一たびその息吹を絶やし錆び付いてしまうと単なる鉄の塊でしかない。急速に無煙化が進むこの頃では何処の機関区でも片隅にひっそりとうち捨てられた数両の廃車体を目にしたものだ。プレート類は外され辛うじて ペンキで殴り書きされ、ありし日の固有番号を留めている。メインロッドも無くクランクピンの摺動部には藁が巻かれ、二度と操作されることもないキャブ内のバルブ類も開けっ放しの窓から雨風に晒されたまま、 もはや気遣う者すらいない。キャブ屋根の後端から垂れ下がる破れた幌の裾だけが微かな風に靡いていた。戦場に息絶えた老兵士への悲哀にも似た感情を抱かせる一駒であった。
(広島第2機関区・1970年8月16日撮影:T.S/解説:T.S)

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